トランスクリエーションの手順その①「クリエイティブコンセプトのブリーフィング」でプロジェクトの方向性をしっかりと把握したら、原文ファイルに一度目を通します。 でもここではまだ、翻訳作業は始めません。だって私は自分が売ろうとしている商品のこと、そしてその商品を買ってくれるお客さまのことを、まだ何も知らないのですから。 🔴関連資料をチェック
ブリーフィングノートと一緒に、クライアント(エージェント)から戦略やブランドのビジョンをまとめた「プレイブック」や、キャンペーン広告デザインなどの関連資料が提供されますので、これを隅々までチェックします。 中にはろくに資料も用意せず、「自分で企業ホームページを探してテキトーに参考になるところを見ておいてね!」と、やや投げやりなクライアントもいらっしゃいますが…。 また、基本的に提供されるマーケティング資料は翻訳者用に作られたものではなく社内マーケチーム向けの資料なので、部外者として知り得ない部分は自分で調べなくてはなりません。 🔴商品とお客さまの背景を知る 商品やサービスが生み出す素晴らしい価値を、クライアントのビジョンを通して日本市場にアピールするのが、私たちトランスクリエーターの役目です。ブランド独自のセールスポイント(USP)やターゲット層の消費行動・心理を理解せずに取りかかれるような、生易しい仕事ではありません。 私が翻訳前に調べておきたいと思う項目は ☛ ブランドの歴史(創業者や現CEOのバックグラウンド) ☛ 企業理念(SDGsなど社会貢献活動への取り組みを含む) ☛ 日本のターゲット顧客情報(職業、年収、年齢、生活習慣 etc.) ☛ 日本市場の競合他社の情報(価格帯、消費者層、広報活動 etc.) ☛ 今回のキャンペーンの関係者情報(イメージキャラクター、提携デザイナー etc.) ☛ 他社商品との相違点 …です。 特に日本で流通している他社の同じような商品に関しては、注意が必要です。競合するブランドと似たようなキャッチコピーをクライアントに知らずに提案してしまったら、大変だからです。 そしてどんな相手に対して販促するのか知っておくとアイデアが浮かびやすいので、この段階でターゲットオーディエンスに関するリサーチもできるだけしておきます。割と自由にお金が使える独身層なのか、それとも自分よりファミリーライフを優先する年齢層なのか。休日には何を楽しみ、どんなメディアを見ているのか。日本のトレンドをチェックして、消費者の大まかなライフスタイルのイメージを頭の中で組み立てておきます。 🔴トランスクリエーション=意訳?NOOOOOOOOO! 「原文をインパクトのあるかっこいい日本語に意訳するのがトランスクリエーションだ」という文句を、さまざまな所で見てきました。その中にはなんと、マーケティング専門の翻訳会社さんも…。 商品開発の背景にある壮大なビジョンと、話しかける相手(消費者)のことを何も知らないまま、売れるコピーを書けるはずがありません。 「かっこいい意訳=トランスクリエーション」論者は、上で述べたような基本のリサーチを怠り、やっつけ仕事をしているのではないでしょうか。 それでは次回はいよいよ、翻訳のステップに入ります。
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一般的な翻訳作業でも、まずはじめに提供された関連資料を精読したり、自分の未知の分野であれば事前にリサーチをしたりといった下準備をしますよね。 トランスクリエーションでは、そのリサーチに入る前にもうひとつ重要なステップがあります。 🔴クリエイティブコンセプトのブリーフィング プロジェクト開始前にクライアントからブリーフィングがあり、キャンペーンのコンセプトやマーケティングの達成目標などの説明を受けます。通常は提供されたブリーフィングノート(後ほど説明します)を読むだけですが、重要なリブランディングプロジェクトですとか、大きなイベントとのタイアップ案件などは、キックオフ時にオンライン会議に呼ばれることもあります。 翻訳者が商品開発・広報のコンセプトの確認の段階からクリエイターの一人として携わる。これはトランスクリエーションならでは、ですよね。 この会議には日本支社のセールスチームも参加するので、特に日本市場で注意すべきことについてのディスカッションもあります。私も英日リンギストの観点から意見を求められることがあります。ポリコレ的には正しいが、他国のキャンペーンで使われているこの言葉の直訳は一般ウケしないのではないか、トーンを少し落として○○ではなく××をメインコピーに使った方が日本では本来のメッセージが伝わりやすいのでは…など、翻訳する中で問題になるであろうトピックについて話します。 そんなのは日本支社のマーケティング担当者の仕事だとおっしゃる方がいるかもしれません。外資系ブランドですとバイリンガルの方も多いので、それが可能なケースもあるでしょう。ただ(これはまた別のところで書きますが)、外国語が話せることと、本社の意図をくんでローカライズすることは全く違う次元の話なので…。トランスクリエーションは、言葉のプロである翻訳者だからこそできる仕事だと思うのです。 🔴ブリーフィングの目的 「ブリーフィング」は、一連の翻訳作業へのインスピレーションやガイダンスの役目を果たします。トランスクリエーターは、プロダクトデザイナー、マーケティングチーム、コンテンツライターと共にプロジェクトにかかわるチームの一員ですから、ここでしっかりと知っておくべきことを自分にインプットします。 断言します。ブリーフィングなしに始まるトランスクリエーション案件はありません(一般的なマーケティング翻訳案件でも、最近はブリーフィングノートを出している翻訳会社さんが多いと思います)。 トランスクリエーターを含む、すべての関係者がクリエイティブコンセプトを理解し、各自の持ち場で同じ方向性をもって仕事をする。一人でもコアの部分の理解がずれてしまっては、ダメなのです。クリエイティブチーム全体で足並みをそろえて、商品やサービスのブランディングを進めていくのです。 コンセプトにそぐわない内容に勝手に翻訳してしまうと、日本市場だけクライアントの意図から離れたマーケティング展開をすることになります。翻訳者がブランドイメージを変えてしまう。これは大問題です。 🔴クリエイティブブリーフィングの内容 それでは実際のクリエイティブブリーフを見てみましょう。こちらはサンプルテンプレートのサイトですが、だいたいどんな物なのか感じがつかめると思います。https://templatelab.com/creative-brief/ 一般的な項目は 1.タイトルと説明 2.ターゲットオーディエンス 3.キャンペーンの目的 4.キーメッセージとTOV 5.キャンペーンのタイムライン 6.SEO対策が必要かどうか 7.参照リンク 8.競合他社の参照リンク 9.配布媒体とプロセス 10.NGワードなど注意点 といったところでしょうか。私が担当する案件はデザイン性の高い製品を扱うブランドが多いため、来シーズン発売予定商品のプロダクトカラーやデザインの詳細、イメージモデルやブランドアンバサダーの写真、広告用ポスターの原案など、ビジュアル情報が盛り込まれたクリエイティブブリーフをもらうこともあります。 これは各国の広報チーム、販売スタッフのトレーニングで使われる社外秘ファイルであり、プレス含め一般には未公開の情報です。NDAにサインしている翻訳会社と翻訳者だけに特別にアクセスが許されるわけです。 パワポで配布されることが多いのですが、スライド数が200~300ページに及ぶこともあります!大事なところにハイライトを入れメモを取りながら、隅々まで目を通します。トランスクリエーターはこのプロセスにかかる時間も含めて、レートを交渉しなければなりません。(レートの設定の方法についてもまた別のところで書きたいと思います。) トランスクリエーターが翻訳を始める前にやることは、まだまだあるんですよ。これはまた次回。 「トランスクリエーション」。ふむ。 クリエイティブな、マーケティング的な何か。世間のイメージはそんなところでしょうか。 言語Aの意味を解きほぐし、わかりやすく言語Bに置き換えるという一般的な翻訳のプロセスそのものがクリエイティブなのだから、Transcreation (Translation +creation)なんて造語をあててまでカテゴリ分けする意味があるの?とお考えの方も業界内に少なからずいらっしゃるのでは。 「トランスクリエーション」とは、原文が持つメッセージや書き手の意図をそのまま、他言語の読み手に効果的に伝える翻訳作業です。 シンプルに聞こえますが、言語はもちろん文化背景、ターゲット層の生活習慣や価値観もまったく違う市場を相手にする時、ただ原文をかっこいいフレーズに意訳しただけでは、伝わる/売れる翻訳にはなりません。クライアントが求める、各国のカスタマーに「正しく響く」訴求力のある言葉を紡ぐには、翻訳スキル以前に広報・マーケティングの知識と経験、コピーライティングのセンスが必要なのです。 機械翻訳技術が急速に進歩しても当面は安泰であろうと思われる見通しが明るい分野であるにもかかわらず、クライアントにも同業者にもなかなかその真のバリューをご理解いただけない「トランスクリエーション」。少しずつ嚙み砕いて説明していきたいと思います。 |
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